まるくす!

池上彰著『高校生からわかる「資本論」』




まさか池上彰氏の本を読むとは……というところですが、これを手にとったのにはきっかけがありまして。

松尾匡氏の『図説雑学 マルクス経済学』をパラパラと目を通していると、ブックガイドとして池上本があげられていたものでどんなものかと手にとってみたのです。




前にも書きましたが、僕には経済学的な教養というものがまるでないので、この本がマルクス主義経済学的にどうなのか判断はできないのですが(まあ「マル経」の知識なんぞなくていいのよwという突っ込みが聞こえてきますが)。

まず松尾氏のほうだが、よかったのは「マルクス主義」の限界だけではなく、マルクス自身の限界をもふまえたうえで、なぜ「マルクス主義」がああいう形をとったのか。それでもなおマルクスの思考の中には有用なものがあり、それをどう生かしていくのか。そのためにはマルクスの残したテクストを「聖典」としてあがめ、そこに留まるのではなく、マルクスの問題意識を生かすにはどういうアプローチをとるか、という視点があることかな。もちろんこれはいわゆる「マル経」などではないのであります。

ちなみに改めていうまでもないでしょうが松尾氏はリフレ派であります。

池上氏の方ですが、これは『資本論』の第一巻をわかりやすく解説したもの(これも改めていうのもナンですが、マルクスの生前に刊行されたのは一巻のみで、残りはエンゲルスが遺稿をまとめ、補足したもの)。

マルクスのまどろっこしい文が引用された後、例のごとくにあのわかりやすい池上解説がつくという構成。実際に高校生などに講義したものをまとめたそうです。
確かにわかりやすく、高校生どころか中学生でも大丈夫じゃないでしょうかね。

ちなみに僕はかつて岩波文庫版の『資本論』を通読したことがあるのですが、二、三巻はすっとばしで何も憶えてなく、一巻にしてももっぱら「資本主義残酷物語」として記憶に残ってるくらいのものなので、この池上解説が的確な解説なのかはこちらも判断できません。いくつか、ん?と思うところもありましたが(ケインズの説明雑すぎ、とか)とにかく手っ取り早く『資本論』について知りたい、あるいは知ったかしたい、という人にはいいんじゃないでしょうか。

マルクスが資本主義を敵視しているだけでなく、その強さというものを認めていたということがしっかり書かれていたことはよかったです。マルクスは資本主義を全否定したのではなく、その効用や強さを認めた上で、全肯定するのではなく、それがなにをもたらしているのかを考えたのですよね。
その「抵抗」のあり方には当然時代的限界があり、また彼が理想とする社会を具体的に描けたのではないこともきちんとふまえてありましたし。


マルクスをどう読むべきか、というのはいろいろな意見があろうとは思いますが、同時代の資本主義の実態を暴いた労働問題ジャーナリストとして読むこともできるのです。
池上氏の本には140年前のマルクスが見た社会と現在の日本がいかに似ているかという比較がありますが、これはマルクスが予言的であったのではなく、資本主義がなにをもたらすのかは本質的には変わらないから、と考えたほうがいいのかもしれない。

もちろん「マルクス主義」(いちいち括弧にいれるのはこれが必ずしもマルクスの考えたものや意図したものを反映していないことを強調するため)が資本主義をひっくり返そうとした壮大なる「実験」は無残な結果に終わったことを忘れてはいけない。
「マルクス主義」の致命的欠陥の一つは資本主義の効用や強さというものを認めなかったところにあるでしょう(それ以外にも山のように欠陥があるのですが)。

僕としては経済学には常にに批判的な目を向けなければならないと思っています。経済学者はしばし自分がイデオロギーにとらわれていないというイデオロギーにとらわれることがあります。一方で、批判的に検証してもなお有益なものもあることも否定しがたい事実です。
具体的に例をあげると、ミルトン・フリードマンやその弟子筋の、いわゆるシカゴ・ボーイズが南米でしたことは強く非難されるべきでしょう。彼らはチリやアルゼンチンを実験台にしただけでなく、軍事独裁政権を支えるなどあきらかに彼らが崇める「自由」に反し、合理性を欠いた政策を押し進めました。しかしだからといってフリードマンの学説が一から十まで全て間違っていたとはいえないのです。

マルクスが資本主義を批判しながらも同時にその効用も認めていたことはすでに書きました。
現在の日本で、とりわけ左がかっている人にありがちなのは、一見「庶民の味方」風でありながら(当人は本気でそう思っているのでしょうが)結果として市井に生きる普通の人々を苦しめるような政策に加担してしまうということです。
資本主義や経済学に批判的なのは大いに結構なのですが、だからといってプラグマティックに現実に対応することをおろそかにしていいことにはならないでしょう。

ちなみに池上彰氏はリフレ派の敵なんですがねw



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佐藤太郎(仮)

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