『ワンダーウーマン』

『ワンダーウーマン』





『バットマンvsスーパーマン』は暗い、話が雑、アクションも地味でフレッシュさがないと、近年のDC作品の駄目なところを煮詰めたような作品であったが、そんな中唯一救いとなったのがワンダーウーマンの存在であった。そして待望の『ワンダーウーマン』であるが、期待にたがわぬ快作といっていいだろう。


当然ながら、アクション作品で女性が主人公を務めたからといってそれが即フェミニズム的作品になるのではない。シガニー・ウィーバー主演の『エイリアン』はむしろミソジニー的作品であるという分析もなされる。

本作と何かと比較されるであろう『マッドマックス 怒りのデスロード』を撮るにあたってジョージ・ミラーはフェミニズム的知見を積極的に取り入れ、そのかいあって『怒りのデスロード』はほぼ満額回答といってもいいほどの出来栄えであった。一方『ワンダーウーマン』は、フェミニズム以外の点でも両義性が滲み出る作品にもなっている。そしてこれは、必ずしも作品の欠点であるのではない。


マッドサイエンティストであるマル博士は、若かりし日はおそらくは女性であること、そしてさらには美人であることによってその能力よりも軽んじられたことだろう。彼女は立場上男性の軍人に引き上げてもらわねば「活躍」できないが、また顔に大きな傷を負っていてそれをマスクによって隠しながら生活しなくてはならない。スティーブのやろうとしたことは「色仕掛け」ともとれ、二重の意味でいささか残酷なものとも映る。ダイアナが彼女に鉄槌を下すのか否かというのは、フェミニズム的観点から論じることができるだろう。

ロンドンにやって来たダイアナが露出の激しい格好で平気で歩きまわろうとすると、生唾を飲んで見つめるのも男性なら、慌てふためいてこれを隠そうとするのも男性である。
フェミニズムはおしゃれをすることや露出の多い服装を拒むのではない。男性の視線や欲望に従属するのではない、自己解放のためのファッションを肯定する。男性は自らが「所有」する女性が他の男性の余計な視線を集めないようコンサバな格好を望むが、女性にとってそれは象徴的にも文字通りにも動きにくい、抑圧を生じさせる服装ともなる。


そのロンドンで、ダイアナが無邪気にも初めて見たアイスクリーム屋を褒めたたえる姿は、誰もが微笑まずにはいられないだろう。俗世間から隔絶されたような世界からやって来た「お姫様」のこうした姿は映画において繰り返し登場するものでもあるが、階級という観点から見るとどうだろうか。

ダイアナは「セクレタリー(秘書)」の仕事内容を聞いて、それは「スレイヴリー(奴隷)」ではないかと言う。それにしても、ダイアナはどこで奴隷の存在を知ったのだろうか。ダイアナは男を見たことがなかったが本で性愛について学んでいた。奴隷についても同じなのだろうか。しかし彼女は「姫」である。彼女の「母」である女王は選挙や籤引きで選ばれた存在であるようには見えない。女王の「娘」であるダイアナの「血筋」は「選ばれた者」であると認識されていたのだろうが、これはつまり「選ばれなかった者」も存在しているということにもなる。ダイアナが一騎打ちの際に出身と名前を名乗るのは「騎士道精神」からくるのだろうが、大量殺戮の時代にあってこれはなんとも滑稽に響く。しかし同時にまた、そんな時代錯誤的行動によって彼女の「高貴」さがより強調されているともとれるし、ダイアナ自身、自分の「出自」に誇りを持っているがゆえにこのような行動に出ているのだろう。


その分だけ「選民」による戦いという面が浮かび上がる。ダイアナは平和を守るためには力が必要であると考えている。素朴な善悪二元論に基づき、「悪」を倒せば平和が訪れると考えていたのだが、言葉を変えれば「悪」を倒さない限りは平和は訪れないということになる。休戦交渉を否定し主戦論を唱えるダイアナは、傍からは好戦的なタカ派に見えてしまう。そして、ダイアナを演じるガル・ガドットがイスラエルの占領政策の熱烈な支持者であることを思うと、このあたりはなんとも居心地の悪い思いをさせられる。言うまでもなく俳優の政治的意見と作品のキャラクターは別物であるが、しかし観客はまたメタ的な視線から逃れることもできない。

ダイアナの「母」である女王は、彼女を「力」から遠ざけておきたかった。力を得ればその分だけ「悪」に見つけられる可能性が高まると考えたからだ。これはまた、平和のために力が必要なのではなく、平和のためと称する力こそが悪を生み出し引き寄せるとも読むことができる。

制作側はこれらを意識してイスラエル出身のガドットをキャスティングしたわけではないのだろうが、むしろこのあたりは観客は積極的に居心地の悪さを感じるべきであろうし、その居心地の悪さを感じた観客ほど、後半でのダイアナに突き付けられる事実、そして彼女の価値観の揺らぎを多角的に見ることができるようになる。


シリアスさと陰気さとを取り違えたかのような作品が目立ったDCであるが、青空が登場する『ワンダーウーマン』は、アメコミというジャンルを超えた「深遠」な世界を築きたいという『ダークナイト』以来の呪いを打ち破っているように見える。近年のDCは、「深遠」さとは程遠い陰気なだけ絵の具でモノトーンに作品世界を塗りたくっていたにすぎない。『ワンダーウーマン』はむしろ、アメコミというジャンルを積極的に引き受けることで、その多様な世界を取り戻したといえよう。

よく論じられるように『スーパーマン』をはじめアメコミの作者にはユダヤ系が多く、第二次大戦中にスーパーヒーローたちがナチスと全面対決に入るのは必然の流れであった。一方でこれはマッチョな愛国主義にも容易に転じることになるし、そのせいもあってしばらく時代から取り残されることになる。

アメコミ原作者たちの動機はシリアスにして切実なものであったが、同時に、マスクを被ったりマントを纏ったり赤パンを履くといったヒーローたちは滑稽な存在でもあり、それだけで真剣に受け止めることができない人もいる。両義性、軋轢、矛盾、過剰な解釈、過小評価といったものはアメコミというジャンルに避け難く不随するものでもあろう。

ついに誕生した女性の「ヒーロー」に胸躍らせた女性読者がいたと同時に、露出の多いコスチュームのワンダーウーマンは男性からは別の視線を送られていたことだろう。『THE HERO アメリカン・コミック史』によれば、原作ではワンダーウーマンは毎回のように緊縛され、悶え苦しむという描写が登場するのだという。どういう読者に「サービス」していたのかは言うまでもない(そもそも原作者の趣味が……ということでもあるらしい)。今回ももちろん(?)ダイアナは拘束され悶え苦しむことになる。

「異形」のスーパーヒーローたちはマイノリティの隠喩でもあるが、「異形」のヴィランたちもまたマイノリティの隠喩であるのかもしれない。法を踏み越えてでも「正義」を追求しようとするスーパーヒーローは、独善的自警団主義にも陥りかねない。ワンダーウーマンは女性をエンパワーする存在であったとともに、男性読者からの性的な視線に晒され、男性ヒーローの従属的存在でもあった。このような往還を続けてきたのがアメコミの歴史でもあったが、その土台としてあるのが、あくまでこのジャンルがエンターテイメント作品であるということだ。どれだけ高い志を抱こうが、エンターテイメントとしての魅力がなければそのジャンルは衰退していく。

絶対的な悪を絶対的な他者だと思い込んでいたのがそうではなかった、闘うべき相手である「悪」に逆に誘惑されるといった展開は定型的なもので、これまでいくらでも繰り返されてきた。ダイアナが最後に達する境地も凡庸なものといえばそうである。では定型的な物語はイコール見飽きたものになるのかといえばそうとは限らない。むしろ「型」によって観客は安心して物語に没頭できることになる。その「安心」を揺さぶろうとするのに捉われ過ぎて、予防線を張ることにばかり懸命になって、エンターテイメントとしての本丸がおろそかになってしまっていたのが近年のDC作品であろう。

『ワンダーウーマン』はステレオタイプから逃れようとするのではなく、むしろエンターテイメント作品における「型」を積極的に引き受けている。そしてまた、アメコミというジャンルを、そこに孕まれる矛盾や両義性、居心地の悪さ等を含めて、受け止めている。

『ワンダーウーマン』は様々な投影の対象ともなる。男どもをぶちのめすダイアナの腕力に見惚れる女性がいると同時に、ダイアナの力強い生足にうっとりとする男性もいることだろう。男性に従属するのではないダイアナの行動力に憧れる人もいれば、美男美女のロマンスに憧れる人もいるだろう。物語の「定型」をふまえたことによる心地よさにもひたれるし、そこからはみ出る余剰部分も存在している。万人向けの爽快なアクションエンターテイメント作品として論じることも可能なら、肯定的にも否定的にも見る者が問われる作品であるという切り口から論じることもできる。アメリカでは女性客が押し寄せたのに対し、日本での宣伝、イメージ戦略がああなってしまうというのは日本社会の今を反映したものであり、作品受容の比較という点からも論じることができよう。これらを力強くごそっとかき集めてなお観客を魅了できたことが、『ワンダーウーマン』の勝利を示している。



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佐藤太郎(仮)

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