『ガストン・ガリマール』

ピエール・アスリーヌ著 『ガストン・ガリマール』





こちらにあるように、プルーストが金を払って自著を絶賛する書評を書かせていたことが明らかとなったそうだが、この当時の雰囲気を知りたい人は本書を読んでみるといいだろう。



1919年、プルーストの『花咲く乙女のかげにて』が発売される。売上げも批評も「結構だが控え目なもの」であり、つまりこれは作者にとってもガリマールにとっても満足のいくものではなかったということだ。プルーストはこの作品がゴンクール賞にノミネートされると、「お得意の文学的策略をめぐらした」。昼食会や夕食会を何度も催し、「かれに最終的な勝利をもたらす戦場に親友、近親者を続々と投入したのである。そのかいあってか、『花咲く乙女のかげにて』は賞に輝くが、次席のローラン・ドルジュレスの『木の十字架』との票差はわずか二票だった。

ゴンクールはこの機を逃すまいと駆けずり回り、数日で売り切れた『花咲く乙女のかげにて』の重版をすぐに行い、受賞から十数日で小売店に届けることができた。そこには「ゴンクール賞」と刷られた帯がかけられていた。

またその頃、「負け際の悪いアルバン・ミッシェルの告訴が問題になった」。というのも、ドルジュレスの本にも「ゴンクール賞」と刷った帯がつけられ、「その下に小さな活字で一〇票中四票」と付け加えられたからである」。
結局アルバン・ミッシェルの広告と同じくらい野暮だということで告訴は見送られたそうだ。

文壇をめぐるあれこれや、客の錯覚を狙った帯など、まあいつの時代もどの国でも似たようなものよ、と思わず笑ってしまった。


ガリマール書店はあえて日本で例えると岩波書店のような存在ということになろうが、ガリマール書店のあり方は岩波のそれとは大分異なることがこのガストン・ガリマールの伝記を読むとわかる。雑誌や大衆的な出版物で資金を得て、純文学作品を刊行し作家を育てるというのは日本では岩波以外の大手出版社がやっていることだが、ガリマールはこの手法を取っていたのである。

ガストン・ガリマールの父は「金利生活者」で、絵画収集などでその名をはせていたが、彼は働いたことがなかった。要は大金持ちの息子であり、ガストンも頭脳明晰で成績優秀であったにも関わらず学業を途中で放棄している。彼も労働をするつもりなどなかった。しかしそんな生活に物憂いものを感じるようにもなっていた25歳の時、NRFの編集、経営に誘われ出版業界に入る。

ガストンの生い立ちを考えると浮世離れした経営方針を取りそうなものだが、実際には後に入社してくる弟ともども実務能力が高く、ガリマール書店を権威ある一流出版社へと育てていく。このあたりは以前こちらに書いた、やはり裕福な家庭に生まれ、自ら創設したフェルトリネッリ書店を一流出版社、書店チェーンへと育て上げたジャン・ジャコモ・フェルトリネッリのことも頭によぎる。フェルトリネッリは左翼思想にどっぷりつかりながら、経営者としての才覚もあり実務能力も高かった。ヨーロッパの大金持ちにはこういうタイプの人間が多かったのかといえばおそらくはそういうわけではなく、単に放蕩の限りをつくして財産を食い潰しただけの人物の伝記が書かれることはないということなのだろう。

フェルトリネッリは極左活動も継続して行い、最後は自らが仕掛けた爆弾の誤爆によって死亡することになるが、ガストンの生涯はこの点ではフェルトリネッリとは対照的である。

ガリマールは「享楽家」であった。第一次大戦が始まると病気を装って徴兵を逃れる。絶食し20キロ以上痩せて兵役を免除されると、意気揚々とレストランに食事に行くが胃が受けずにもどしてしまい、皮肉なことに本当に病気になってしまうのであった。ガリマールの行動には当然冷ややかな目も向けられたが、彼は意に介さなかった。といっても、絶対平和主義者による信念の行動とは少し違った。ガリマールはこの戦争をバカげたものだと思い、バカげた戦争で死ぬなどバカげたことだと考えたのであった。

皮肉なことにというべきが、「ミュンヘン会談」後にはNRFは好戦的であると批判をされることになる。フランスがあっさりと占領されると、作家も出版社も厳しい選択を迫られた。第二次大戦後にはガリマールも対独協力で訴追される危険もあったが、権謀術数を尽くしてこれを切り抜け、さらなる威信を獲得するのであった。ガストンは95歳の目前まで生き、息子が社長を引く継ぐことになる。


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佐藤太郎(仮)

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